

おはようございます。米国の公民権運動における象徴的な存在だったジョン・ルイス(John Lewis)下院議員が、17日、没しました。本日は、キング牧師とともに、人種差別や社会の分断と戦った「ジョン・ルイス」の半生を描いた超骨太グラフィック・ノベル『MARCH(マーチ)』を紹介します。
『MARCH 1~3』ジョン・ルイス、アンドリュー・アイディン/著 ネイト・パウエル/イラスト 岩波書店
MARCHとは「デモ行進」を意味します。
本書は1950年代から60年代にかけてのUSA公民権運動の歴史を、運動の指導者の一人、ジョン・ルイス議員の視点から描いた作品です。
物語は、2009年のオバマ大統領就任式の当日、ルイスが自分のオフィスに「黒人の歴史を見せたくて」と訪ねてきた母子の問いに応える形で話し出され、式への参加を通して、一連の回想~公民権運動の起点となった出来事から1965年の黒人の投票権法成立まで~が展開され、3巻目の最終頁は、就任式の翌日、ルイスが原作パートナーのアンドリューへ、こうした自らと仲間達の経験を伝えるために「コミック・ブック作りを始めるぞ」と声をかける場面で終わります。
つまり、それが、このグラフィック・ノベル(長く複雑なストーリーを備えたアメリカの漫画本)3部作です。
当事者の視線や会議証言記録・写真を元に綿密に描き上げられ、一冊ごとに詰まった情報量は非常に多いのですが、暴力社会とそこに立ち込める深い闇を表わす黒塗りの画面に、時折黒人たちの連帯を高める歌が祈りのようにしなやかに力強く響く独特なタッチで描かれ、当時の流れや「その場の空気感」が、読者によく感受できます。私たちはいつしか差別と暴力の渦巻くアメリカ南部に黒人たちと共にいます。
人間としての権利を求めただけで被る、度を超す南部の「普通の市民」からの暴力と、仲間が次々と非合法的に殺されていく恐怖。イエス、ガンジー、キング牧師に学んだ非暴力的抵抗を徹底的に訓練し、どん底に落ちながらそれでもルイスは仲間と勇気を奮い起こし、愚直にひた向きに時代を前へと押し進めていきます。その持続する志と行動は私たちの胸をうちます。
ルイスは1940年生まれ。以下、彼の軌跡を記しますが年齢を押さえてください。この物語の主人公はまさしく「YA世代」なのです。
・1955年(15歳)、キング牧師の演説をラジオで聞き衝撃を受ける。
・~58年(18歳)、コミック『キング牧師とモンゴメリー物語』を読み、進むべき道を決める。
・60年(20歳)、食堂の白人専用カウンターで座り込みデモを行う。
・61年(21歳)、人種隔離に反対するために南部に向かうバスに乗り人種の壁を破る。
・63年(23歳)、SNCC(学生非暴力調整委員会)委員長となり、ワシントン大行進で最年少の演説をする。
・64年(24歳)、アフリカ訪問。マルコムXから「これは人種を越えた闘いなのだ。人々は変化しつつある、君達を応援している人々は世界中にいるぞ」と励ましを受ける。
・65年(25歳)、公民権法の成立をみるが、すべての黒人の選挙権が保障されなかったので、投票権獲得のためのセルマからの行進の先頭に立つ。この非武装・無抵抗のデモに警察が容赦のない攻撃を加えた「血の日曜日事件」で、ルイスは倒れる。(・・・が、投票権法の成立を促す。)


30代半ばになっていたキング牧師が政治・社会の動きを見ながら運動の進め方に躊躇し苦慮する場面と対照的に、ルイスを初めとする若者たちの、停滞を打ち破り物事を前進させていく「何としても貫く頑固さ」が鮮明に描かれています。その一貫性は、物語後半、ルイスとSNCCの乖離が広がったセルマに於いて、個人として行進に参加するルイスの姿に際立ちます。
本書を手に取り、頁下に*の付けられた歴史的用語等の説明を読み、挟み込まれた解説の地図で経路をたどり、年表で流れを確認しながら、「差別とは何か」「それは誰が作り出しているのか」「差別が当たり前に許容されていた時代はいかに恐ろしいか」「それに抵抗して人々はどのように声を上げ、そして、闘い続ける勇気を仲間たちと育んだのか」と改めて考え始めた高校生たちがいます。
それは、ドキュメンタリー映画『私はあなたのニグロではない』を観に行き、また、ゴスペル、ソウル、ジャズ、ファンク、ヒップホップ、ラップ等の黒人音楽に関心を寄せる生徒たちでもあります。そこで、みんなと話すうちに、話題は、「黒人の状況は私たちにとり他人事といえるのか」と進みました。
日本では、・・・在日外国人やアジア諸国の人々への偏見、ジェンダー差別、貧富の差・格差社会、被差別部落、沖縄米軍基地の問題・・・等が立ち上がってきました。
この3部作は、私たちに人間の尊厳と向き合わせる本です。