2020年7月31日金曜日

小説のなかの夏


おはようございます。17期生の山口洸さんが、6/8、6/27に続き、みたび寄稿してくれました。洸君、ありがとうございます!今回は、まさに夏休み (自森は明日8/1~) 直前にスペシャル版3冊。どうぞ、お楽しみください。

〇 梅雨があければもう夏ですね。まもなく皆さんも夏休みに入ることでしょう。
私が小学生のころ夏休みの宿題に読書感想文というものがありました。夏休みも終わりに近づいたある日、宿題のために角野栄子さんの「魔女の宅急便」という本を手に取りました。前の晩にテレビで宮崎監督の映画「魔女の宅急便」を放映していて、結末が分かっているなら多少ななめ読みしても大丈夫という安易な考えからでした。原稿用紙を文字で埋め、登校日に忘れないように食卓の上に出しておきました。翌朝起きてみると、そこには父により赤入れされ3行に要約され無残な姿の読書感想文がありました。そんなわけで私は夏休みの宿題が嫌いです。特に読書感想文には敵意すら抱いています。
さて今回は夏を舞台にした少し不思議な小説を3冊紹介しようと思います。

「ペンギンハイウェイ」森見登美彦/著 角川文庫

これは小学四年生のアオヤマくんが体験した一夏かぎりの不思議な現象についての物語である。それは街にペンギンが出現することから始まり、歯科医院で働く仲のよいお姉さんのおっぱいを経由して、<海>が溢れるところまで発展します。この次々に発生する突拍子もない謎をアオヤマくんは仲間と協力しながら解き明かそうとするのだ。
なにせこのアオヤマくんは只者ではない。たくさん本を読み、毎日の発見をノートに書きとめ、疑問に思った事象をとことん研究する。夏休みの宿題を最終日にあわてて片付けるようなことは絶対にない。計画性があり、些細なことで怒らず、さらには「寡黙な人」になるつもりなのに無駄にしゃべりすぎたと反省したりする。まったくナマイキだ。
森見さん小説は不思議な光景を織り交ぜるのが抜群にうまい。登場人物のウィットの効いた会話を楽しんでいると、いつの間にかありふれた日常からとんでもない世界に迷い込んでいる。それはまるで夏の陽炎のようである。


「夜市」恒川光太郎/著 角川ホラー文庫

私が夏と聞いて思い浮かべるのは、どこまでも連なるまつりの屋台である。日が暮れると裸電球の光で全てがキラキラと輝き、見慣れた日常はあやしい世界に一変する。その熱に浮かされたように、なけなしの小遣いであれこれ買うのだが次々に欲しいものが出てくるから不思議だ。しかし翌日、太陽の下であらためてみると、なぜこんなものを欲しがったのか分からないガラクタをばかりだから狐にでも化かされた心持ちになる。
この物語に出てくる夜市はさらに妖しく魅惑的だ。そこでは何でも売っている、なぜならその夜市はこの世のものではない。問題はどうやって買うかということである。何も買わなければ夜市から帰ることはできない。まるで熱帯夜にみる悪夢のような物語である。


「夏への扉」ロバート・A・ハインライン/著 早川書房

ダンの愛猫ピートは冬になると家中の扉を開けてくれとせがむ。家にある扉のどれか1つが夏へ通じていると固く信じているのだ。そしてダンもまた胸のなかには冬があり、夏への扉を探し続けていた。
こんな書き出しから始まるこの物語は1956年に発表されたタイムトラベルを扱った初期の傑作SF小説の1つである。この物語のプロットはとても上手くできていて、のちに作られるタイムトラベルを扱った小説や映画に大きな影響を与えた。
しかし私がこの小説を紹介するのは、ダンと雄猫ピートの生き方がカッコいいからだ。裏切られ、傷つき、さまざまな困難が降りかかるが、軽口をたたき皮肉を忘れず道を切り拓いていく。彼らは自由を心から愛し、自立を尊重する。その姿はテンポのよい会話と相まって読んでいてとても痛快だ。夏の夕立を眺めながらボンヤリと読みたい一冊である。


最後に小説から少しだけ文章を借りようと思います。
“かつてはパートナーと組んだ経験もある。だが、畜生、何度火傷しようと、ひとを信用しなければならないときがあるのだ。そうしなければ、洞窟の隠者になって片目を開けたまま寝るはめになる。安全でいる方法なんてなにもない。生きていること自体が、そもそもとても危険なことなんだ…死に至る危険。”
「夏への扉」より。

2020年7月30日木曜日

何より旅に出たくなる本


おはようございます。7期生の沖内辰郎さんのご登場。沖内君(通称:Qちゃん)、ご寄稿、ありがとうございます!皆さん、どうぞ、ご一読ください。

『コピーボーイ』ヴィンス・ヴォーター/作 原田勝/訳 岩波書店STAMPBOOKS

(注意!この本を読む予定のある人は僕の紹介文を読む前に先に本を読んでも大丈夫です)

当然のように思っていること、簡単なことを「水道の蛇口をひねるように」というがそれについても遡って考えてみると蛇口から上水道管を通り浄水場を抜けて取水湖へ行き、そこへ流れる川へ、また雨と途方もなく長い旅が始まる。一つとして抜けたら蛇口から水はジャーとは出てこない。

コピーボーイというのは、主人公のヴィクが高校生の時に新聞社で働く見習いアルバイト呼び名だ。1965年当時のアメリカでは新聞社はタイプライターで昨日書いた原稿を仕分け整理し、タイプライターのインクを補充したり、編集者たちが出社する前から支度をしているコピーボーイという職業があったそうだ。

アメリカのメンフィスで18歳のヴィク青年は大学では得意の野球をやらない事にした。ヴィクは吃音(きつおん、どもりのこと)だけど、とても早い球を投げる。そしてタイプライターで文字を打つのが好きだ。

ヴィクがコピーボーイをする前にやっていた新聞配達で知り合った年の離れた親友スピロさんの遺言、「亡くなったらミシシッピ川河口まで遺灰をまいてくれ」という約束を果たすために旅に出る。

さて両親の元を離れてヴィク青年が1人、新聞社の記者"ロケット"ロウカーの友人パットン将軍を頼りにルイジアナ州のニューオリンズに向かう。さらにミシシッピ川の河口へ。

ミシシッピ川はどこからミシシッピ川になるんだろう(さて名栗川の源流は?)川はいつ海になるのか。ワンミシシッピという俚諺がある。ミシシッピ川はそれほど大きいという意味らしい。ミシシッピ川に接する州は10州もある。ニューオリンズを舞台にした小説や映画は沢山あるけど、ニューオリンズより下流に行く話は初めて読んだ。

ジャズミュージシャンや音楽もあまり出てこないけどこんなにニューオリンズを感じさせる本もない。フランス語を使うアケイジャンの素敵なフィルとの出会いもニューオリンズらしい。

2020年7月29日水曜日

ポーン・ロボット


おはようございます。本日も、「表紙と題名に惹かれて手に取った」という読者が多い本を紹介します。表紙は映画「AKIRA」の原画を描いた田中達之さん。「ポーン・ロボット」って何でしょう。まずはご一読を。

『ポーン・ロボット』 森川成美/著 偕成社

主人公の中2男子・宇喜多千明が、ジョギング中に、変な男、全身黒でおおわれた奇妙なランナーを夜の町で見かけるのを見かけた時から、このSFは始まります。

級友一家の謎の消失、・・・そして、青い髪の万引き少女と彼女を背後で操る少女。千明は念ずる力で万引きを止めますが、その代償に失神します。

気づくと時は経過していて、両親の失踪、家の消滅、救護施設での妹・理央との再会…と話が進み、施設で知り合った田丸と三人で、町で頻繁に起こる人々の消滅事件の原因究明に乗りだすことになります。

しかし、それはやがて、・・・実は、他の星から逃避してきた先の青い髪の少女達と共に、地球人類絶滅をもたらす、暴走するポーン・ロボットとの闘いへと発展していきます。

(すっごい超々高速で説明してしまった!)

戦争をする人間の性(さが)と自律型兵器ロボット開発の恐ろしさが巧みに描かれ、絶望的な状況に抗う主人公たちの諦めない行動が、読者の気持ちをぐっとひきつけて離さないでしょう。

2020年7月28日火曜日

わたしが少女型ロボットだったころ


おはようございます。今日は、「表紙と題名に惹かれて手に取った」という読者も多い本書。まずはご一読を。

『わたしが少女型ロボットだったころ』 石川宏千花/著 偕成社

中学の卒業式間際、一五歳の少女・多鶴(たづ)は、母親の一方的な支配下に置かれた濃密な母娘関係にあったが、母の同性の恋人が突然割り込んで来たことにより、その関係にヒビが入り、初めて自分が母のロボットであったと気づきます。

しかし、その事実による心の痛みは、彼女を「自分は人間そっくりのロボットだ」と彼女に強く思い込ませ、その体を「ロボットは食を必要としない」と、重い摂食障害に陥らせます。

この、多鶴の過去の在り方への自己否定を伴う母親からの自立、そして身体の回復の道を、彼女が自分がロボットであったと打ち明けても否定することなく彼女を受け入れて、手を取りながら一緒に解決策を探してくれる同学年のまるちゃんが支えます。

彼の関わり方が「ロボットだ」と気づいた彼女を、「過去や現在から更に進化した多鶴へ」と向かわせて行きます。

二年後、「それどころじゃない」状態を脱して「つきあう」日を迎えた二人に光が訪れる。・・・

自分が母親のロボットであったと認識し食べることをやめた少女と、彼女を理解しようとする少年。

一人の少女が、ゆらぎ、見失いそうになる自分の形を見つけるための物語です。

2020年7月27日月曜日

フェミニズム批評の本


おはようございます。今日は、本を読んだり映画を観たりしたあと、ただ「面白かったー」がなんとなく物足りなくなってきて、もう一歩、深く楽しんだり、調べたり、理解したいな……と思う時に手にとってみたい本です。ご一読を。

『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』 北村紗衣/著 書肆侃侃房

映画や小説に対するフェミニズム批評の本です。この本を読んだら、映画の見方が変わり、自分は、今まである偏りをもって映画を見てきたのだなあと気づくでしょう。

英米の映画はフェミニズム批評やクィア批評に影響を受けた世代が作り手に成長してきたことで、ここ数年、がらりと変わりました。映画がかわっていくためには、それを語る言葉、批評というものも重要なのだとつくづく思います。

さて、この本の不思議なタイトルは、イギリスの古い童謡をもじってつけられています。

”この歌詞には、「女の子って何でできてるの?お砂糖とスパイスとあらゆる素敵なもので」(What are little girls made of? Sugar and spice and everything nice)という一節があるのですが、私はこの女の子が「ナイス」(nice、つまり「素敵」)なものでできているというのがどうも引っかかってイヤだなと思ったので、そこを変えました。私たちは別にナイスなものではできていないし、ナイスになる必要なんてないんだ、という意味をこめたタイトルです。”

なるほど。女性の中に「素敵」なんてことばを軽くはみ出してくる「爆発的な何か」を!なんですね。

……どんなことでもいいから、自分の中の、”爆発的な何か”を親友と思ってやっていく。

ポップでシャープでフレッシュ!な作品。

フェミニズム批評とは、「男女を問わず」世界の見方を何倍にも豊かにしてくれる、超強力なツールであり武器なのだということを教えてくれる本です。

〇 登場する作品
『ワンダーウーマン』『ゲーム・オブ・スローンズ』『ナチュラルウーマン』
『わたしを離さないで』『華麗なるギャツビー』『アナと雪の女王』『ファイト・クラブ』『バベットの晩餐会』『嵐が丘』『すばらしい新世界』『タンジェリン』『フェミニジア』『キングスマン』『ダウントン・アビー』ほか

2020年7月26日日曜日

こども六法


おはようございます。6/6、7/10に続いて1期生の須藤倫子さん、3回目のご登場。須藤(旧姓・小迫、通称:ちゃこねえ)さん、ご寄稿、ありがとうございます!皆さん、どうぞ、ご一読ください。

『こども六法』 山崎聡一郎/著  伊藤ハムスター/イラスト 弘文堂  2019年

憲法や子どもの権利条約の理念的なことは、自由の森でいろんな機会に持たれる議論の中で触れられることは割とあると思う。でも、実際法律上ではどうなってるの?といった面へ考えをめぐらせることって案外ないのでは?

これは小中高生のための実用書として、どこまでも具体的に作られている法律本。こんなときどうすればいいの、頼りになる法律ってあるの?私が在学中に少し年下の図書委員に「俺、フィクションて全然読めない。役に立つ本しか読もうって気にならない」と言われて驚いたけど、あの当時の彼もこれなら「けっこう使えるかも」ってパラパラ見てくれそう。

いま私が司書として勤務している小学校の図書館では、もう8歳くらいから人間関係をときほぐすための実用書をものすごく必要として、どんどん借りに来る。友だち関係を円滑にし、学校生活をサバイバルしていくための解説書、攻略本。つまり自分の身を守る本。この『こども六法』もそんな1冊として10歳くらいの子から読まれている。「自分用にほしくて、買ってもらっちゃった」と報告に来る子も何人もいる。学校で、家で、つらい思いをしている子が自分の置かれている状況を知るために、自分じゃなくても友だちに寄り添うために、すぐ使えるテキストなのだ。

著者は小学校でのいじめ被害者で、中学では加害者になってしまった経験を持つ。社会学を学んで、あの頃法律をきちんと知っていれば、被害者のままでいなくても済んだし、加害に流されそうになった時に踏みとどまれたかもしれないと思ったそう(被害者から加害者に転じた人なんて信じられない!と思う人もいるかもしれないけど、その時置かれた状況次第で人は思いがけない行動もしてしまうものだし、そういう弱さを乗り越えていくためにもこんな本を読んで知識と行動するための力を身につけていくことはすごく重要)。

これからの子どもたちにそのことを伝えたいという強い気持ち、法律は君の味方だという主張がまっすぐ伝わってくる本。

ベストセラーだからと敬遠しないで1度手に取ってみてほしい。

2020年7月25日土曜日

轍なき道目指して進む



おはようございます。今日は、卒業生の小森谷翔平さんのご寄稿です。しょうちゃん、ありがとう!絵本『えんとつ町のプペル』の天才クリエイターが語る一冊の本を紹介しています。どうぞ。

『革命のファンファーレ 現代のお金と広告』西野亮廣/著 幻冬舎

「轍なき道目指して進む」・・・
もし僕のモットーに共感するなら、この本を読んでみてはいかがでしょうか。

この本は世間にある「当たり前」や「普通」を疑い、いかに自分の価値を最大限発揮するかを考える小さなきっかけになるはずです。

「普通」を避ける道を選ぶのなら、他人の何十倍も考え行動していかなければなりません。迷うことも否定されることもあるけれど、自分の中に強い芯があればきっと大丈夫。僕はこの本を読んでそう背中を押された気がします。

今すぐには無理でも、いずれ自分にしかない価値を見つけて自分らしくいけてゆけますように。

・・・ 

でもね、この本の内容を一蹴するくらいじゃないと、ホントの意味で轍なき道は歩るけないんだろうな。

2020年7月24日金曜日

霊能力のある、養護教諭の闘いの物語


おはようございます。本日は、50人の日常をさりげなく、深く、描いた『フィフティ・ピープル』(亜紀書房)の韓国の若手作家、チョン・セランさんの『保健室のアン・ウニョン先生』です。作者が「私はこの物語をただ快感のために書きました。」という本書。どうぞ、皆さんもお楽しみください!

『保健室のアン・ウニョン先生』チョン・セラン/著 亜紀書房 

養護教諭のアン・ウニョンが新しく赴任した、ソウルのはずれにある私立M高校。この学校には原因不明の怪奇現象や不思議な出来事がつぎつぎとまき起こります。

本書は、霊能力を持つアン・ウニョンがBB弾の銃とレインボーカラーの剣を手に、この高校の財団の御曹司で同僚の漢文教師ホン・インピョと共に、さまざまな謎や邪悪なものたちに立ち向かう、痛快な連作短篇集です。

謎の地下室、胡散臭い英語教師、悪い虫を採る転入生…等の奇想天外な物語の中から、高校生達の抱える思春期の悩みや、教員の抱える気苦労、世間の片隅に弾かれた人々…への温かい思いが伝わってきます。

人間の抱える「ぐにゃぐにゃしたゼリーみたいなもの」、見たくなくても見えてしまうものから目を逸らさず、互いに自分のできる優しさで接する二人の先生。

暗い幼少期を過ごしたウニョンが「めっちゃ走り回る少年マンガのキャラ」のような「ウニョン先生」となる道を選んだ経緯が、胸に迫ります。

2020年7月23日木曜日

この暗雲ただよう危なげな時代に“一撃”を!


おはようございます。本日は、本学園高等学校教頭の菅間さんがインタビュアーを務めた10人―どなたもとても魅力的な生き方をされている―のインタビュー集です。まずは、菅間さんご本人の思いのこもった紹介をどうぞ。そして、ぜひ、直接、手に取ってみてください。

『向かい風が吹いても カウンターを生きる10人の声』菅間正道編 子どもの未来社(2020/7/15)

高校教頭・社会科の菅間正道です。このたび、私が聞き手となってのインタビュー集『向かい風が吹いていても カウンターを生きる10人の声』(子どもの未来社)が刊行されました。とても嬉しく、「自粛」ならぬ「自祝」したい気持ち、大声で「やっと出来た!」と叫びたい気持ちでいっぱいです。

私はここ8年くらい、季刊の教育誌『人間と教育』(旬報社)において、巻頭インタビューをおこなってきました。そのコンセプトは、本のタイトルにあるように、「向かい風だけれど、時に口笛を吹きながらカウンターを生きる」という方たちのお話を伺う、というものです。今回、インタビューを収録させていただいたのは次の10人(敬称略・掲載順)です。

松元 ヒロ(スタンダップコメディアン)
清水 眞砂子(翻訳家・児童文学者)
奥田 知志(牧師・路上生活支援者)
落合 恵子(作家・クレヨンハウス主宰)
辛 淑玉(人権アクティビスト)
塚本 晋也(映画監督)
三上 智恵(ジャーナリスト・映画監督)
安田 菜津紀(フォトジャーナリスト)
小熊 英二(歴史社会学者)
高橋 源一郎(作家)

ご存知の方も多いかと思いますが、トップバッターの松元ヒロさんは、数学科・松元大地さんのお父さんです。ヒロさんには素敵な「前口上」=プロローグを寄稿していただきました。お読みいただくとわかるのですが、一人ひとりの分量はおよそ1万3000字、つまり結構長尺で、準備段階からまとめまで、それぞれの方へ尋常でないエネルギーを注いできたつもりです。

私としては、カウンターあるいはオルタナティブを生きる方たちの声を聴きとり、それを社会に戻しながら、この暗雲ただよう危なげな時代に“一撃を食らわせたい”という思いはありました。この向かい風(アゲインスト)のなか、人間らしく生きたいと願う多くの人に届くことを強く願っています。 

世にインタビュー本は多々あれど、「カウンター(対抗的な)、あるいはオルタナティブ(もう一つの/別の路を)を生きる」ということを軸に語り合った、本書は希少かなと思っています。

もしよろしければ、手に取って、目を通してみてください。また、感想など伺えたら超ウレシイです。

2020年7月22日水曜日

アドリブ


おはようございます。本日は、イタリア、トスカーナの小さな町に暮らすユージの青春音楽小説です。どうぞ、お楽しみください。

『アドリブ』佐藤まどか/著 あすなろ書房

アドリブ(ad lib., ad lib, ad:lib)とはラテン語の「ad libitum」の略で、「自由に」を意味する音楽用語です。即興演奏・インプロヴィゼーション。

イタリア、トスカーナの小さな町に暮らすユージ。彼は、10歳の時、フルートの音色と出会い、全く吹けないのに、手垢がついていないことと、音感、リズム感の良さで学校以外の音楽院に入学を認められます。

そして、ユージは、少しずつフルートを自分の音にしてきました。

15歳の今、ユージは生きて行くことの日常と、自分の才能の不確かさのせめぎ合いの中で、一つの楽曲をどのように表現するのかと模索しています。

やがて、彼は自分の限界を知りつつ、オーディションに果敢に挑戦することにより、覚悟を決めていきます。

音を楽しめ。「自由に。心のおもむくままに(アドリブの意味)」と。

フルートの購入で悩み、周囲の大人達からのサプライズ・プレゼントに涙する。ひたむきに音楽と向き合うユージの成長が、心地よい読後感をうみます。

2020年7月21日火曜日

ザリガニの鳴くところ!


おはようございます。本日は、原書の売り上げが500万部を突破し、2019年アメリカで1番売れた本『ザリガニの鳴くところ』の紹介です。どうぞ、ご一読ください!

『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ/著 早川書房

本書は、1969年、ノースカロライナの湿地で男の死体が発見されたことから始まります。

疑惑は、村人から「湿地の少女」と呼ばれ、偏見や好奇の目にさらされ続けてきたカイアに向けられます。彼女は幼い頃に家族に置き去りにされ、麻袋いっぱいの貝を掘ってお金を得るぎりぎりの生活をしてきました。読み書きを教えてくれたテッドとの別れを初め、圧倒的な孤独の中、未開の地に生きてきたのです。

物語は、捜査・逮捕・裁判と展開する1969~1970年と、カイア6歳の1952年以降の彼女の成長を追う話が交互に進み、やがて、衝撃の結末へと至ります。

濃密な湿地の自然、そこに息づく無数の命。その脈動と自分の鼓動を重ねて生きる、学者であり詩人でもあるカイアの姿は、ザリガニの鳴くところ…という場と共に、強烈に私たちの脳裏へ刻まれます。

想像するしかない、カイアの人生の壮絶さ。彼女はその人生を、彼女自身の手で開き続けてきました。差別も貧困も裏切りも、何ひとつとして彼女のことを貶めることはできなかったのです。

孤高の人生の、その気高さに心が打ち震える。

傑作!です。

2020年7月20日月曜日

明るい部屋


おはようございます。今日は、卒業生の佐藤壮生さんのご寄稿です。ありがとうございます!「僕がこの本を初めて読んだのは18歳のとき」で始まる、一冊の本の紹介。皆さん、どうぞ、お楽しみください。

『明るい部屋』ロラン・バルト/著 みすず書房

僕がこの本を初めて読んだのは18歳のとき、『散歩の達人』という街歩きの雑誌が好きでした。いつも違う、気になる女の子を誘って、特集されてる街を一緒に歩くのも楽しかったけど、カメラを持って、ひとりで歩くと、知らない街で迷子になって、いい気分でした。

今でも、知らない街で迷子になるとワクワクします。

その頃はまだフィルムカメラが全盛で、そこで撮った写真を暗室に入って現像してました。酢酸の匂いが充満した暗い部屋で、現像用の赤いランプでぼんやり現れてくる街の写真、たまに女の子。その時の、人に言ってもうまく伝わらない、でもとても愛着のある写真について、頭のいいフランスのおじさんが説明してくれたのが、この『明るい部屋』という本です。

プンクティムって、ちょっと可愛い響きの言葉で、写真の中の、どうしようもなく気になる一点についての話をするのだけど、もしかしたら愛の話なのかもしれない。

インスタとかティックトックとかで切り取られた一瞬のテンションとは少し違う時代。懐に家族の写真を抱いて戦争に行った人が、写真から感じていた、記憶を遡って想像した暖かさみたいな部分も、感じられるかもしれません。

2020年7月19日日曜日

人間の尊厳と向き合わせる本


おはようございます。米国の公民権運動における象徴的な存在だったジョン・ルイス(John Lewis)下院議員が、17日、没しました。本日は、キング牧師とともに、人種差別や社会の分断と戦った「ジョン・ルイス」の半生を描いた超骨太グラフィック・ノベル『MARCH(マーチ)』を紹介します。

『MARCH  1~3』ジョン・ルイス、アンドリュー・アイディン/著 ネイト・パウエル/イラスト 岩波書店

MARCHとは「デモ行進」を意味します。
本書は1950年代から60年代にかけてのUSA公民権運動の歴史を、運動の指導者の一人、ジョン・ルイス議員の視点から描いた作品です。

物語は、2009年のオバマ大統領就任式の当日、ルイスが自分のオフィスに「黒人の歴史を見せたくて」と訪ねてきた母子の問いに応える形で話し出され、式への参加を通して、一連の回想~公民権運動の起点となった出来事から1965年の黒人の投票権法成立まで~が展開され、3巻目の最終頁は、就任式の翌日、ルイスが原作パートナーのアンドリューへ、こうした自らと仲間達の経験を伝えるために「コミック・ブック作りを始めるぞ」と声をかける場面で終わります。

つまり、それが、このグラフィック・ノベル(長く複雑なストーリーを備えたアメリカの漫画本)3部作です。

当事者の視線や会議証言記録・写真を元に綿密に描き上げられ、一冊ごとに詰まった情報量は非常に多いのですが、暴力社会とそこに立ち込める深い闇を表わす黒塗りの画面に、時折黒人たちの連帯を高める歌が祈りのようにしなやかに力強く響く独特なタッチで描かれ、当時の流れや「その場の空気感」が、読者によく感受できます。私たちはいつしか差別と暴力の渦巻くアメリカ南部に黒人たちと共にいます。

人間としての権利を求めただけで被る、度を超す南部の「普通の市民」からの暴力と、仲間が次々と非合法的に殺されていく恐怖。イエス、ガンジー、キング牧師に学んだ非暴力的抵抗を徹底的に訓練し、どん底に落ちながらそれでもルイスは仲間と勇気を奮い起こし、愚直にひた向きに時代を前へと押し進めていきます。その持続する志と行動は私たちの胸をうちます。

ルイスは1940年生まれ。以下、彼の軌跡を記しますが年齢を押さえてください。この物語の主人公はまさしく「YA世代」なのです。
・1955年(15歳)、キング牧師の演説をラジオで聞き衝撃を受ける。
・~58年(18歳)、コミック『キング牧師とモンゴメリー物語』を読み、進むべき道を決める。
・60年(20歳)、食堂の白人専用カウンターで座り込みデモを行う。
・61年(21歳)、人種隔離に反対するために南部に向かうバスに乗り人種の壁を破る。
・63年(23歳)、SNCC(学生非暴力調整委員会)委員長となり、ワシントン大行進で最年少の演説をする。
・64年(24歳)、アフリカ訪問。マルコムXから「これは人種を越えた闘いなのだ。人々は変化しつつある、君達を応援している人々は世界中にいるぞ」と励ましを受ける。
・65年(25歳)、公民権法の成立をみるが、すべての黒人の選挙権が保障されなかったので、投票権獲得のためのセルマからの行進の先頭に立つ。この非武装・無抵抗のデモに警察が容赦のない攻撃を加えた「血の日曜日事件」で、ルイスは倒れる。(・・・が、投票権法の成立を促す。)


30代半ばになっていたキング牧師が政治・社会の動きを見ながら運動の進め方に躊躇し苦慮する場面と対照的に、ルイスを初めとする若者たちの、停滞を打ち破り物事を前進させていく「何としても貫く頑固さ」が鮮明に描かれています。その一貫性は、物語後半、ルイスとSNCCの乖離が広がったセルマに於いて、個人として行進に参加するルイスの姿に際立ちます。

本書を手に取り、頁下に*の付けられた歴史的用語等の説明を読み、挟み込まれた解説の地図で経路をたどり、年表で流れを確認しながら、「差別とは何か」「それは誰が作り出しているのか」「差別が当たり前に許容されていた時代はいかに恐ろしいか」「それに抵抗して人々はどのように声を上げ、そして、闘い続ける勇気を仲間たちと育んだのか」と改めて考え始めた高校生たちがいます。

それは、ドキュメンタリー映画『私はあなたのニグロではない』を観に行き、また、ゴスペル、ソウル、ジャズ、ファンク、ヒップホップ、ラップ等の黒人音楽に関心を寄せる生徒たちでもあります。そこで、みんなと話すうちに、話題は、「黒人の状況は私たちにとり他人事といえるのか」と進みました。

日本では、・・・在日外国人やアジア諸国の人々への偏見、ジェンダー差別、貧富の差・格差社会、被差別部落、沖縄米軍基地の問題・・・等が立ち上がってきました。

この3部作は、私たちに人間の尊厳と向き合わせる本です。

2020年7月18日土曜日

しまふくろうの森


おはようございます。本日は、北海道に生息するしまふくろうを、生命力溢れる姿をカメラでとらえ、熱い文章で伝える写真絵本です。どうぞ!

『しまふくろうの森』前川貴行/文・写真 あかね書房

本書の表紙は、暗闇のなか、翼を大きく広げたシマフクロウです。見返しを開くと、紙面いっぱいにヒナの顔。しっかり開いたまん丸の目。ヒナは、木から落ちては地上を歩き、また木によじ登るのを一週間ほど繰り返して、巣立ちの練習をするらしいです。

そのヒナを見守る親鳥。翼を広げた勇壮な飛行。樹上にたたずむシルエット。森の奥への侵入者に向けた眼光するどい目つき。じっと見入ってしまいます。特に枝上のたたずまい、いかめしい顔つき、翼の不思議な造形は、まさにコタン・コロ・カムイ。

「写真を撮ることは同時に、目の前の生き物たちと、無言のコミュニケーションをとること」と、前川氏。それが本書の文にも感じられます。シマフクロウに注ぐ熱い思いが伝わってくるのです。枝にとまっているヒナについては「ポロン」、成鳥は「ボロン」と表現した擬態語も耳に残ります。

シマフクロウは世界最大級のフクロウで、国の天然記念物です。体長は約70センチメートル、翼を広げると180センチメートルにもなります。日本では北海道中央部と東部に分布しますが、環境省のレッドリストで「絶滅危惧IA類」(ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高い種)に分類されています。現在確認されている個体数は約160羽。環境省や市民の保護活動にもかかわらず、絶滅が危ぶまれている・・・。

本書はヒナの写真で始まり、読み終えて本を閉じると、裏表紙でまた違った表情のヒナに出会えます。

ぜひ、一度、手に取ってご覧ください。

2020年7月17日金曜日

カヌーの旅


おはようございます。本日は、季節が違うだろう!と突っ込みが入る写真集です。だから、面白いと思って、では、皆さんの「夏をさがして」を思い浮かべてください。もうすぐ、夏休みですね。では、北米湖北地方へ、どうぞ。

『春をさがして カヌーの旅』大竹英洋/文・写真 福音館書店

アメリカ北部からカナダの北極圏にかけて、無数の湖と深い森の広がる「ノースウッズ」。大竹さんは、ここをフィールドに活躍する写真家です。ここを毎年のように訪れ、自然と人との関わりを問い直す作品を発表し続けています。

本書は、大竹さんが、ノースウッズについて一番詳しい友人・大工のウェインさんと同行した冬から春にかけて旅した様子を紹介した写真と文で、福音館書店の「たくさんのふしぎ傑作集」シリーズの中の一冊です。
*
蒼い湖面を進む手作りカヌー。頭に、そのカヌーを担いで湖畔を歩く。そして、気に入った場所にテントを張る。

薪の香り、・・・カエルや鳥の声で目覚める。人が踏み込まない深い森の美しい自然や動物のたちの痕跡!カリブーの角は抜け落ちたばかりで、まだ体毛が残っています。

写真を眺めていると、まるで自分がノースウッズにいるような空気に包まれます。

苔むす古い森、そして新しい森。山火事の熱で開いた松かさから種が落ち、森が再生してきます。岩壁に残された古代人風の絵が、ノースウッドの長い歴史を物語ります。

愛らしい春の花が咲く頃、この旅は終わります。
*
ちなみに、この二人の極寒の旅が楽しめる。『カリブーの足音』(たくさんのふしぎ381号)という本もあります。

さて、今年の夏は・・・。

2020年7月16日木曜日

アンネ・フランクのグラフィック日記


おはようございます。本日は、生きていれば今年は91歳になる、ナチスによるユダヤ人迫害のため命を奪われたアンネ・フランクの日記のグラフィック・ノベル版(コミック)の紹介です。

『[グラフィック版]アンネの日記』アンネ・フランク/著 アリ・フォルマン/編集 デイビッド・ポロンスキー/イラスト あすなろ書房

あの『アンネの日記』のグラフィック・ノベル版(コミック)です。つまり、アンネ・フランクのグラフィック日記。

ナチス・ヒットラーが政権掌握後、迫害から逃れるため、一家で故国ドイツを離れてオランダのアムステルダムへ亡命したユダヤ人の少女であるアンネが13歳から2年間超の強いられた幽閉生活、不安、恐れ、怒り、愛の思春期の生活の日々を書きつづった日記をもとに、歴史的事実を加えて、彼女とともに隠れて暮らした人々の日常までも細密に描きだしたものです。

絵の一コマ一コマに目をこらします。

隠れ家の細部が分かり、アンネの喜怒哀楽の表情がより質感を持って伝わってきます。

75年前、ナチスによるユダヤ人迫害のため15歳半で命を奪われたアンネ・フランク。生きていれば今年は91歳・・・

やはり、アンネと『アンネの日記』について、アンネの生活を10のテーマに分け生涯をたどり、各テーマの始めに彼女の生きた時代と社会の短い紹介を配した『かくれ家のアンネ・フランク』(ヤニー・ファン・デル・モーレン著 岩波少年文庫)とともに、YAの皆さんへのおススメです。

一度は手に取ってみてください。

2020年7月15日水曜日

ワーンと元気がわいてくる、ファンタジー


おはようございます。今日は、元気がワーンとわいてくるファンタジーです。自分のものではない経験ができ、そこで自由に空想の翼をはばたかせられる「ネバームーア」の世界へ、皆さん、ようこそ。

『ネバームーア モリガン・クロウの挑戦』ジェシカ・タウンゼント/著 早川書房

最悪な運勢の日といわれる「闇宵時」に生まれた呪われた子どもモリガン・クロウは、次の闇宵時の夜に死ぬ運命でした。・・・と、いきなり物語に入ってしまいます。

自分が生まれた時からいつ死ぬか分かっていたら、そして、生きている間ずっと、不幸や不運の責任を押しつけられ、家族からも誰からも愛されることがなかったら、誰もが人生に夢や希望など持てるわけがないでしょう。モリガンは、そんな11歳になる少女でした。

けれど、運命の夜、彼女は突如現れた青年ジュピター・ノースに「君は生きたくないのか?」と聞かれます。

「もちろん生きたい!」です。

追いつかれれば殺されてしまう、恐ろしい〈煙と影のハンター〉から逃れたモリガンは、都市ネバームーアに到着します。ネバームーアへはこれまで想像もしたことのないような素晴らしいところでした。

ほっと安心したのもつかの間、ここに留まるには、「輝かしき結社」の、特技を持つ数多くの子どもたちと競争する入会審査に合格しなくてはならないのです。

彼女は失敗し自信を無くし、諦めそうになります。でも、後援者ジュピター・ノースに支えられ、生まれて初めて友だちもでき、1年をかけて審査を受けます。

4回目の審査に必要なモノは「天賦の才」!

自分にはそんなモノはないと、モリガンは思いますが、・・・、やがて、彼女の運命がじょじょに明らかになってきます。

生まれた世界で不幸な目に遭っている少女が、魔法都市ネバームーアへ行き、試練を乗り越え居場所を見つけ出すまでの物語の第1巻。不幸な中でも勝ち気な少女が頑張る、なんか元気がワーンとわいてくる、ファンタジーです。

読みだすとテンポがよく、どんどん、どんどん、面白い。

2020年7月14日火曜日

気だるさに身を任せて


おはようございます。今日は、6/7、6/14、6/30、7/4に登場した29期生の牛田悠貴さんの「現代ラテンアメリカ文学・紹介」の第5弾!です。朝から雨降りの今日みたいな日に読むにうってつけの小説らしいです。ありがとう!うっしー。どうぞ、皆さん。

『深い川』ホセ・マリア・アルゲダス/著 現代企画室


最近は雨が多くて、気分が少し「どよーん」としている。なんて人もいるかも知れません。そういう時って、おもしろおかしい本よりも、むしろ気だるさに寄り添ってくれるような本が読みたくなること、ありませんか?

今回紹介するペルーの作家、アルゲダスの『深い川』は、どんよりとした気分に寄り添うタイプのおはなしかな。と思います。これ読んで、「よし、元気が出た!!」っていう人は多分変態です(笑)

内容的には、ちょっとハードな長編。大雑把に作品の全体像を言うと、南米の先住民と仲良しな白人の少年が、自身の白人文化や教育には馴染めず、逆に自分と同じ白人の富豪や神父たちによって、先住民が虐げられていることに心を痛めているという感じです。

もちろん他にも色々なことが起きます。知的障害の女の子や、黒人の神父など、先住民以外の被差別や犯罪も描かれているし、逆にそういう人たちのちょっとした幸せの場面も描かれています。

「ハードな内容」と言いましたが、もっと鬱展開になる小説やマンガはいくらでもあるなあ…と思っていた中、とあるブログで『とんでもないような残虐性や悲しみに貫かれているよりも、こういった中くらいの悲しみを背負った文学作品を読んだほうが、胸が張り裂けそうな感じになる。』と紹介されてるのを見て、「まさに!!」と納得しました。

なんだか、グロテスク過ぎたり、憂鬱すぎると、ある種自分とは無関係で完全なフィクションとして消化してしまうのですが、こういう作品はチクチクと自分の中にある悪性を引きずり出されそうな感じがするのです。

弱者を守ると言いながら、その人たちが強くなることを決して許さずに、搾取を続けていく強者たち。そしてその「強者の偽善」を見抜く少年の語り口が、僕自身の中にも存在している「偽善」を暴こうとしているようにも感じられました。

アルゲダス自身が、ただの小説家ではなく、文化人類学者ということもあり、若干専門用語多めだったり、事物の説明が細かすぎたりするのが少し読みにくいというところもありますが、(一回それで挫折しました)なんとなく分からないとこはスルーしても物語の全体像にはさほど響かなそうなことが分かったので、読み切ることが出来た感じです。

何も予定がない日とか、たまにこういう本を読んで、気だるさに身を任せてみるのも良いかも知れませんね。

2020年7月13日月曜日

「カラス」愛!あふれる1冊



おはようございます。今日は、7/3・7/8に続き3回目の登場、2期生の宮崎詠子さんです。あきら(在校中の通称)さん、ご寄稿、ありがう!皆さん、どうぞ、お楽しみください。

『カラスの教科書』松原始/著 雷鳥社・講談社文庫

カラスって、いつの時代も悪者? 

え? かわいいって思っちゃダメなの? 
なんて思っていた人へ朗報! 

イラストレーター・植木ななせさんのかわいいカラスの絵におもしろ楽しいカラスのあれこれ。

まず、知らないとね、カラスを。知らないのに怖がっていたり嫌っていたんですね。ごめんね。

特に面白いのは「よくある質問」。
「カラスはなぜ黒いの?」の答えが「全然わかりません」って! 

カラス愛あふれる1冊。

フォントもかわいくってこれを読んだらカラスの見方がかわること請け合い。もちろん真面目なカラスの生態も書かれています。「なんでカラスをあんなに気味悪がっていたんだろ?」なんて思っちゃう。分厚い本だけれどあっという間に読めちゃうし、読んだ後は街中でカラスを見かけたらつい観察しちゃうようになっちゃうかも。

2020年7月12日日曜日

家族の再生の物語


おはようございます。今日は、妹の化学物質過敏症を治すために、浦和から南アルプスのふもとに引っ越した一家族の姿を、中学生の兄の目線で語った物語です。ご一読ください。

『ずっと見つめていた』森島いずみ/作 しらこ/絵 偕成社

越(えつ)の一家は、妹つぐみの化学物質過敏症が治らないため、両親は、自然な環境と特別な学校のある場所を探し、埼玉県の浦和から富士山の見える山梨県に引っ越します。都会から南アルプスのふもとへと、学校、塾、ゲームを繰り返す日々を送っていた越は、複雑な思いで地元の全校生徒16人の小さな中学校に通います。

「里づくりの会」の紹介で昭和の時代にスリップしたような家を借り、母はやりたかった自然食のお店に改修しました。

豊かな自然は、つぐみにとって心身共に元気を与えることとなりました。越は、なかなか気持ちを整理できないまま、それでも田舎での暮らしを丸ごと受入れていきます。同級生の結衣や慎太郎との出会い、両親の生き方や思いに気持ちを馳せることで、自分の今とこれからについて考えることができるようになっていきます。

母親は、地元の食材を使った自然食の食堂をオープンさせますが、この地域の有力者からのいやがらせにあい、お店はなかなか軌道に乗りません。地元にうけいれてもらうには難しいものがありました。

埼玉時代の親友・直登から夏期講習にさそわれた越は、同じ中学に通う結衣と塾のセミナーに参加しましたが、つぐみがマムシにかまれたという緊急の連絡が入り、急きょ家にもどります。この事件をきっかけに大きな変化が起こります。

中学生の長男・越の目線で話が進んでいく、一家の再生の物語。

最後の場面、つぐみがじっと朝顔の開花を待つ顔、それを見ながら妹の時間の流れに気づく越の姿が印象に残ります。

2020年7月11日土曜日

いっぽんのせん


おはようございます。今日も昨日に続き絵本の紹介です。今回は、文字が読めない子にもお話の内容の理解を助けるピクトグラム(ことばの意味を絵や記号で表現した絵文字)付きの絵本です。どうぞ、ご覧ください。

『いっぽんのせんとマヌエル ピクニックのひ』マリア・ホセ・フェラーダ/文 パト・メナ/絵 偕成社(2020/1/11)

マヌエルは、線が大好きな自閉症の男の子です。

一日の生活が一本の青い線をたどって描かれます。

町といなかをつなぐ一本の線、道をたどってマヌエルは家族といっしょに車でピクニックに出かけます。マヌエルは動くものも大好き。鳥やちょうちょ、ヤギや馬、ウサギ、カブトムシと触れ合います。二人の弟と木々の間でかけっこをし、顔にさわる風の感触や風の音を感じ、川を流れる葉っぱ、星や月など自然の中で満たされ、自分の世界を広げていきます。

シンプルで分かりやすい絵と文章にピクトグラム(ことばの意味を絵や記号で表現した絵文字)がついて文字が読めない子にもお話の内容の理解を助けます。

みなさんも、ピクトグラムを文章や絵と見比べ丁寧に読むと、マヌエルの気持ちによりそってピクニックに出かける楽しさを感じられますよ。

前作『いっぽんのせんとマヌエル』(2017/8/29)の後書きに、
「このひろい世界には、いろいろなひとがくらす、さまざまな考え方があり、たくさんの感じ方があるのだとマヌエルのような子どもたちは私たちに教えてくれている」
と書かれていました。

みなさんも、この2冊を手に取って読めば、本当にその通りだなあと思うでしょう。

前作『いっぽんのせんとマヌエル』はチリの絵本でした。自閉症の男の子、マヌエルと作者が出会ったことで、生まれた絵本です。線が大好きなマヌエルが、線をたどって学校へいって家に帰るまでを、シンプルな言葉と絵で描いていました。この作品もまた、日本版は文字を読みにくい人たちのために、理解を助けるピクトグラムがついていました。続篇となる本書は、実は日本のオリジナルでの刊行です。1巻目の刊行時に、プロモーションのために来日した作者と画家が、日本の保育園でワークショップをしました。そのときに日本の子どもたちから受けた刺激から、生まれた絵本だそうです。

ぜひ、一度、手に取ってみてください。

2020年7月10日金曜日

毎日うっとり眺めている絵本


おはようございます。6/6に続いて1期生の須藤倫子さんが登場。ご寄稿、ありがとうございます!須藤(旧姓・小迫、通称:ちゃこねえ)さん。皆さん、どうぞ、ご一読ください。

『ジュリアンはマーメイド』ジェシカ・ラブ/文・絵  横山和江/訳 サウザンブックス社 (2020/6/22)

ジュリアンは小さな男の子。おばあちゃんに連れられた電車の中でそれは素敵な「人魚」たちに出会います。なんてきれいなんだろう。あっという間にジュリアンは想像の海へ。魚たちに囲まれ、自分も髪の長い人魚になって心ゆくまで海の中を堪能するジュリアン。
帰宅後、鏡に向かい、レースのカーテンその他でぼくも人魚に大変身! 

するとおばあちゃんはジュリアンを外へ連れ出します。もっと人魚ごっこしてたかったのにな。ところが行った先にはあの人魚たちはじめ、色とりどりの人たちがたくさんいて、みんなで大行進。もちろんジュリアン人魚もね。

LGBT本のサウザンブックス社から出た絵本で、作者の友人のトランスジェンダー女性がヒントになっているとのことなので、ジュリアンが見とれるお姉さんたちは多分トランス女性で、最後のパレードも毎年コニーアイランドで行なわれているものらしいのですが、そこまで読み取らなくても、自分がきれいだと思ったものを心からそうだと言えること、その気持ちをこんな風に表現できることは素敵だねって、そういうお話。

川原泉の短編コミック「月夜のドレス」が気になった人はきっと気に入るんじゃないかな。絵がとびきり良いので、色づかいを見ているだけでもしあわせになれます。今年クラウドファンディングで買って以来、私は毎日うっとり眺めております。今は書店でも買えるし図書館でも読めますよ。ぶっきらぼうに見えて愛情たっぷりのばあちゃんもいい味出してます。


自由の森に昔はあった水泳部(顧問は鬼沢さん!)の初代部長からのおすすめ本でした(私にもマーメイドと呼ばれた夏があったんですよ)。

2020年7月9日木曜日

僕が家庭科教師になったわけ


本日の図書館ブログは、今年度から、「人間生活科」の高3の授業を担当される教員の小平陽一さんの登場です。なぜ、小平さんが「家庭科」を選ばれたのか。「家庭科」「人間生活科」という教科の奥行も見えてきます。どうぞ、ご一読ください。

『僕が家庭科教師になったわけ つまるところの「生きる力」』小平陽一/著 太郎次郎社エディタス(2016/2/10)

皆さんこんにちは。今年から、人間生活科を担当することになった小平です。僕は、元は化学の教師、化学を18年間教えた後、家庭科に転科しました。

家庭科というと、女子の教科とか、料理・裁縫とか思われがちですね。途中までは確かにそうでした。しかし、1994年(平成6年)から高校の家庭科(中学はその前年から)が男女共修になりました。家庭科は、そこから大きく変わったのです。僕はその年に女子大に通い、家庭科の免許を取り、翌年から家庭科の先生になったのです。

なぜ家庭科に?
それはこの本を読んでのお楽しみ。

ですが、ざっくり言いますと、自分が目指してきた現代科学というものに疑問を感じ始めたことが一つ。水俣病をはじめとする公害の問題や、原発や原子爆弾、さらには環境問題に関心を持ち始めてから、科学の二面性に危うさを感じ始めたのです。市民の立場の科学や生活科学というものが必要だな、と思ったのです。その時出会ったのが家庭科でした。家庭科は人々の暮らしを大事にする教科です。それは総合科学であり、生活の哲学だと思っています。

もう一つの理由は、共稼ぎで二人の子育てに悪戦苦闘する中で、生活技術の未熟さを思い知らされたことでした。男も家事育児を担い、共に家庭生活に責任を持つべきだと思ったのです。でも本当のところは、男頭で育った僕が、バトルをしながらも妻に厳しく鍛えられ、徐々に成長していった過程の物語がこの本です。

ぜひ、読んでみてくださいね。

2020年7月8日水曜日

ファストファッションがなぜあんなにも安いのか


おはようございます。今日は、7/3に続き2回目の登場、2期生の宮崎詠子(在学中の通称:あきら)さんです。ご寄稿、ありがとうございます。皆さん、どうぞご一読を!

『このTシャツは児童労働で作られました。』シモン・ストランゲル著 枇谷玲子訳 汐文社

ファストファッションがなぜあんなにも安いのか考えたことがあるかどうか。Tシャツだけじゃなく、チョコレート、サッカーボール、レンガ、コーヒー……。

おかしい。

それは小さな子どもが、真っ暗な所に閉じ込められて食べ物もロクに貰えず、学校にも行けず、朝から晩までミシンを踏んでいるからかもしれない。

「奴隷」、信じられないかもしれないけれど、今でも世界の1億5千万人の子どもたちが強制労働させられている。

これはノルウェーで話題になった本。

バングラデシュのリーナは朝から晩まで、自分では着ることのできない服を作っている。ノルウェーのエミーリエは友達と行ったファストファッションのお店でお店の人の目を盗んで商品タグに「このTシャツは児童労働で作られました」と書かれたシールを張っているのを目撃した。その時からエミーリエの生活と価値観と考え方と行動が変わった。

日本にいる私たちは関係ないと思う? 

そうじゃない。もしかしたら今、あなたが着ているTシャツが、履いている靴が、食べているチョコレートが、バナナが、学校にも行かせてもらえない子どもが作った物で、だけれど「安くてラッキー」と思っちゃうかもしれない。

安いのが悪いと、言いきれない。でも、その安さの訳を知って欲しい。その知る一冊にしてほしい。1億5千万人の子どもたちが、太陽の元で遊んでごはんを食べて学校に行って勉強して、将来について夢を語れるように、これから買い物をする時に、ちょっと考えて欲しい。

2020年7月7日火曜日

働く上で大切な、ワークルールを簡潔に解説


おはようございます。今日は、コロナ禍の今だからこそ、知っておきたい働く上でのルールを分かりやすく解説した本です。今回は、「2 アルバイト編」ですが、本シリーズは、「1 ワークルールってなんだ?」「3 就活・就職篇」「4 ワークルールでつくる豊かな社会」の4巻です。監修は、卒業生の保護者で自由の森でも何回か講演された上西充子(法政大学キャリアデザイン学部教授)さんです。どうぞ、ご覧ください。

『こんなときこそワークルール!アルバイト編 〈10代からのワークルール:これだけは知っておきたい「働くこと」の決まり2〉』上西充子/監修 旬報社
 
コロナ禍、学生さんのバイトは軒並み無給の自宅待機を言い渡されたそうです。この中には家庭の経済環境により働かないと生きていけない学生もいるのに。一方的に解雇を告げられた学生さんもいたのです。
 
働く理由は人によって様々ですが、正社員でもアルバイトやパートでも同じ「労働」に違いはありません。人が労働をしたら対価として賃金が支払われる。しかし、この対価は実は簡単なことではありません。法律や制度によって守られているから、こそなのです。

本書は、働く上で大事な、そのワークルールを簡潔に解説している本です。
 
この本のはしがきに、―アルバイトであっても、雇用されて働いている以上は「労働者」であり、労働法の対象です。(中略)「学生だから」ということは関係なく、お互いにルールを守らなければなりません。―と。アルバイトだからといっても法できちんと守られていて、当然、権利があるということが明言されています。
 
例えば、「地域ごとに最低賃金が定められている」や「学業が優先で無理のない働き方を」「仕事内容や条件については、書面でもらう権利」などの基本的な事柄で、それらが、分かりやすくQ&A式で解説されています。
 
また、「勝手にシフトを入れられる」「仕事中のうっかりミスに罰金」「アルバイト中の怪我に治療費は?」「セクハラ・パワハラ」と、身に迫る、具体的な事例がどんどん出てきます。

フランチャイズで開業して利益を上げるので精一杯で、労働法の概念が欠落し暴走してしまう雇用主。だからこそ、雇用される側がアルバイトでも権利や法で守られていることをしっかり理解していなければと分かってきます。
 
コロナ禍の今、だからこそ、このワークルールの存在がより〈リアル〉になってきています。