2020年6月16日火曜日

中国からのSF『三体』


おはようございます。今日は、アジアから初めてSF最高賞のヒューゴー賞長編小説を受賞した作品『三体』です。6/5に登場した24期生の中島大地さんが紹介してくれました。大地さん、ありがとう!ちなみに、この作品の続編『三体2 黒暗森林』が、6/18、上下巻で発行されます。これも楽しみ。皆さん、どうぞご覧ください。

『三体』 劉慈欣/著 立原透耶/監修 大森望、光吉さくら、ワンチャイ/訳 早川書房 (2019/7/4)

『三体』は、中国人作家・劉慈欣が執筆したSF小説です。

文化大革命の時期に物理学者の父を惨殺された女性・葉文潔のストーリーと、世界から科学を撲滅しようとする謎の敵に立ち向かうためバーチャルリアリティゲーム「三体」に取り組む科学者・汪淼のストーリーが組み合わさり、人類滅亡の危機が明らかになっていく、という構成になっています。

2019年、日本語版が出版されると評判になり、三週間で十万部を突破しました。早川書房による積極的なプロモーションが功を奏したともいえますが、何といっても作品自体が持っている力が大きい、と私は考えています。

『三体』のシリーズは、中国で2100万部、アメリカでも100万部売れたそうです。中国において、『三体』は、これまで傍流とされてきたSFというジャンルを世間に知らしめた作品として評価されています。また、アメリカではヒューゴー賞を受賞したことにより広く認知されました。オバマ元大統領が『三体』を読んでいる、とインタビューで述べたことでも有名になりました。

『三体』には様々な魅力があります。まず、ストーリーテリングが極めて巧みです。文化大革命や現代を描く現実のパートと、SF要素を盛り込んだバーチャルリアリティゲームなどのSFのパートが違和感なく、巧みに繋ぎ合わされています。

現実のパートでは、文化大革命の悲惨さや、現代社会の矛盾をリアルに描き出して心をつかみます。たとえば、造反有理を掲げて知識人をつるし上げる文化大革命時期の紅衛兵の運動や、現代社会に吹き荒れる「反科学」運動の愚かさに対する批判的なまなざしは、一種の風刺と読み取ることもできます。しかし、それらの描写が全体のバランスを壊すことはなく、むしろ物語に組み込まれていて、必然性があります。結果として、『三体』は、優れたエンターテインメントとなっています。さらに、中国を深く知る者にしか書き得ない叙述となり、作品のオリジナリティともなっています。

SFのパートでは、SF的要素を大量に盛り込みながら手際よくまとめあげることにより、物語を文字通り宇宙のかなたにまで飛躍させます。異星人との接触、世界を再現するバーチャルリアリティゲームの繰り返し、別次元の使用など、SF的ギミックが満載です。壮大さにおいて、J・P・ホーガン『星を継ぐもの』、光瀬龍『百億の昼と千億の夜』といった名作を彷彿とさせます。

中国では、いまSFがブームです。『三体』以外にも魅力的な作品が続々と生まれています。2018年に出版された『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』は、秀逸な短編小説を収録していて、気軽に読みやすいので、おすすめです。