2020年8月13日木曜日

キッズ ライク アス


おはようございます!本日は、思春期を迎えた自閉症スペクトラム障害の高校生の、瑞々しくも胸が詰まるような心の揺れを描く一冊です。どうぞ、ご一読、ください。

『キッズ ライク アス』ヒラリー・レイル/著 林真紀/訳 サウザンブックス社 2020/7

ロサンゼルスの「特別な学校」に通う『自閉症スペクトラム障害』の高校生マーティンが、映画監督の母の仕事に合わせて、姉のエリザベスと一緒にフランスの田舎町で過ごすひと夏を描く物語です。

マーティンは、他人とうまく接することができません。『自閉症スペクトラム障害』には、「(他人と)視線が合わないか、合っても共感的でない」「ひとりごとが多い。人の言ったことをオウム返しする」といった特徴があります。また、対人関係が苦手で、なにかに強いこだわりを持つことも特徴とされています。

そんな、自分気持ちを言葉で発することが難しいマーティンは、あらゆることを、今は刑務所に収監されている父親からもらったプルーストの『失われた時を求めて』(本書でマーティンは「失われた時」と呼んでいる)の場面やセリフで考え、言葉にします。彼の世界のすべては「失われた時」の中に存在しています。

彼の言動が理解出来ないと感じ「自分の世界にこもってしまわないでよ」と言いたくなる姉や母父の苦しさ、そう言われる彼の苦しさ。「僕の内側では、僕は決して自分の殻に閉じこもってなどいないのだ」と。

そんな彼はフランスで出会い恋におちる少女を、彼は「失われた時」のジルベルト・スワンだと考え、ジルベルトと呼びます。

だが、彼は彼女とうまく接することはできません。それでも、マーティンは、少しずつ自分の言葉で自分の気持ちを伝えようとします。次第に、彼はそれが空想ではなく、彼女が生身の人間であることに気づき、彼女の存在は、いつしかジルベルトからアリスへと変化し、マーティンは現実のアリスと仲を深めていきます。ときに、彼を傷つけるような出来事も起きますが、それも乗り越えられるだけの経験を積み、彼は他の同級生たちとも友だちになっていきます。

恋をしたり、「友情」を築いたり、あるいは自分の才能や将来の夢について考えを巡らせたり、そんな思春期のYAたちの毎日を、自閉症スペクトラム障害の彼がどのように迎え感じていくのか。

主人公のマーティンは、イケメンで、映画監督の母や親身に寄り添ってくれる姉を持ち、生活苦や容姿の劣等感等抜きに純粋に悩める環境の子だけに、全編を通して、多感な年頃の、彼特有の心の動きが彼の言葉で精緻に描写されていて、主人公の内面を一緒に体験できます。

それは、・・・障害の有無は関係なく、誰もが感じる人間関係の難しさや殻を破ることへの勇気が、美しいフランスの田舎の風景をバックに、強く優しく、みずみずしく描かれていることでもあります。

本書では、『自閉症スペクトラム障害』は治すべき障害なのか、という問いを読者に投げかけてきます。マーティンの母は、彼が障害を克服し、普通の男の子として学校に通い、友だちを作ることを望んでいました。『自閉症スペクトラム障害』のような障害を持つ人をありのままに受け入れるべきという考え方もあり、それは『ニューロダイバーシティ』と呼ばれています。

そして、・・・マーティンは、フランスでのさまざまな葛藤や交流、そして故郷ロサンゼルスの「特別な」学校の友人たちとのやり取りを通して、最終的に「自分は自分のままでいいのだ」と自分自身を受け入れていきます。

最後に、“kids like US”とは、僕らのような子どもたち、という意味です。