おはようございます!今日は、人間の個性をめぐる物語です。この作品に描かれたふたつの個性は、社会との極度の緊張を強いられる多様な個性です。ご一読ください。
『ニキ』夏木志朋/著 ポプラ社
高校生・田井中広一が主人公。彼は黙っていても、口を開いても、つねに人から馬鹿にされ、世界から浮き上がってしまう、そんな個性の人です。その広一が「この人なら」と唯一、人間的な関心を寄せたのが美術教師の二木良平でした。二木は穏やかな人気教師で通っていましたが、それは表の顔。
二木は社会と折り合うことが難しい性を抱えた人物でした。どうしても大人の女性を好きになれない─ペドフィリア(小児性愛者)なのです。
性的マイノリティの中でも、LGBTとペドフィリア(小児性愛)は同列に語れないところがあります。最も大きな違いは、相手の合意を取れるかどうかでしょう。LGBTと違い、ペドフィリアは、そもそも相手との合意が成立しません。
彼が自分以上に危険な人間であると確信する広一は、二木に近づき、脅し、とんでもない取引をもちかけます——。
追い詰めあうふたりのやりとりは、スリリングです。騙しているのか本気なのか、裏切りなのか友情なのかわかりません。両者の駆け引きから、言葉の欠片が飛んできます。まっすぐなのに奇妙にねじれ、温もりと突風が入り混じるようなバトルです。そんな駆け引きのなかで、事態は思わぬ方向に進んで行きます。
個性と社会の緊張を描き出した本書は、きわどい場面を描きながらも、さまざまな個性に応じた生き方と、その「倫理」を正面から問います。
本書には、どうしても抗えない性、でも絶対に実行に移してはいけない性を持った人間が、生きるすべはないだろうかという問いがあります。
その中で語られるのは、覚悟を持って「自分の大事な部分をクローゼットの中に隠して生きていく方法」です。
「欲望ってすごく強いものじゃないですか。それほどの衝動を抑えられるのは、自分の中の戒律を守る心、それはある種の自己愛、言い換えれば誇りだと思うんです。特に、二木のように孤独を覚悟して生きている人間は、自分自身に嫌われたらおしまいという思いを持つ人も多いのではと私は考えます。」と作者は語っています。
難しいテーマを扱い、力強いメッセージを描きつつ展開し、ラストは、不思議なすがすがしさを覚える青春小説です。
性の多様性と個性をめぐり、いろいろと考えることのできる作品です。
